日向渓谷の森で、バンッ、バンッと時折り空気を震わす低周波音が !? 人前には顔を見せぬ「ヤマドリ(山鳥)」は恋の季節。彼女に向けて母衣打でラブコール。

 日向渓谷は、渓流「日向川」の人口ダム裏側で営巣する「カワガラス(河烏)」の撮影で、野鳥撮影家には人気のスポットです。またこの場所は元々、私たち野鳥撮影家以外に日向山から大山への登山ルートとして登山家にも人気の場所になっているのです。実は、林道入口の手前に無料の駐車場があるのですが、最近異変が起きています。

 

 後日、知人のフェースブックを見て謎が解けました。狙いは「ヤマドリ(山鳥)」だったのです。恥ずかしい話ですが、管理人は「ヤマドリ(山鳥)」の存在すら知らず、知人の写真を見てこんな鳥が山の中にいるのかと驚きました。頭の部分は「キジ(雉)」のようでもありますが、尾が長いので少し違いますし、どちらかと言えば「ニワトリ(鶏)」のチャボに尾羽を長くしたような感じです。そして一番感動したのがその色彩です。赤胴色で鱗状の模様が全身をまとい、背面から首筋にかけてやや赤味が増します。特徴の尾羽は90センチメートルにもなり、蛇の鱗のように、積み木を重ねた模様の尾が2本伸びています。

 

 「ヤマドリ(山鳥)」、実に安易な名前の付いた野鳥と思ったのが第一印象です。野鳥の名前は、先人たちが姿や形、色そして鳴き声などに工夫を凝らし、成程と思う名前が付けられています。それが山で生息する鳥だからヤマドリとは、田んぼの中に住んでいるから田中さんのようなものです。Webでウィキペディアのヤマドリを検索し、故事来歴を調べると、今から約1,300年前に遡ること飛鳥時代に、柿本人麻呂が長い尾のヤマドリを題材に歌を詠んでおり、百人一首にも出てくるそうです。その美しい姿から「極楽尾長鳥」などの名前が付けられそうですが、古くは枕草子や万葉集で詠まれ定着してきた「ヤマドリ(山鳥)」、そんな名前を変える訳にはいきませんね。

 

 「ヤマドリ(山鳥)」の全長は、オスで約125センチメートル、メスは55センチメートルあります。尾を除けばオスもメスも同じくらいの大きさで、これから推測すると胴体部分は40センチメートルくらいです。オスの長い尾は、41.5~95.2センチメートル、メスの尾は16.4~20.5センチメートルです(☆)。オスの羽色は、全身光沢があり、光が当たると赤胴色が増し、特に首周りは更に赤味が強く増します。頭部は赤味が強い褐色で冠羽はありませんが、興奮すると頭頂の羽毛が逆立ち、冠状に見えます(☆)。頭面は、キジと同じように皮膚の露出部があり、繁殖期には赤味が強くなります(☆)。「ヤマドリ(山鳥)」撮影の注意点は、この長い尾を入れた全身の撮影が必要となります。小鳥の撮影には高倍率が必要ですが、あまり大きいと撮影位置にもよりますが、尾羽が切れかねません。一番良いのはズームで任意に倍率を変えるのも良いのですが、管理人は鮮明度を増すため300ミリの単焦点を使っています。ただ2倍のテレコン、600ミリだと写真のように尾切れになってしまいます。1.4倍のテレコン420ミリだと尾切れの心配はなさそうです(※)。

 日本固有の野鳥、「ヤマドリ(山鳥)」。その和名のヤマドリは山地で生息することに由来します。その山地は、標高1,500メートル以下の山地にある森林や藪地に生息し、渓流の周辺にある杉やヒノキからなる針葉樹林や下生えがシダ類植物で繁茂した環境を好みます(☆)。環境条件としてこの日向渓谷は、「ヤマドリ(山鳥)」の生息に必要な理想の環境だったのです。管理人は野鳥撮影を始めて日向林道には何回も訪れていますが、こんな美しい野鳥に遭遇したことがありません。

 食性は、植物食傾向の強い雑食で、植物の葉、花、果実、種子、昆虫、クモ、甲殻類、ミミズなどを食べます(☆)。オスが鳴くことは稀で、繁殖期を迎える今は、比較的小さ目の両翼を胴体に打ち付け、激しく羽ばたく「母衣打ち」をします(☆)。この母衣打ちは、周囲の空気を翼で取り込むことで低周波の振動となり遠方まで伝搬します。管理人の年齢になると低周波領域の聞こえは鈍くなりますが、空気の振動なので体感的に感じ取ることができます。この「母衣打ち」自分の縄張りを主張し、メスへのアピール行為です。繁殖期間は、キジなどと同じ4月から6月にかけて、6から12個の卵を産む多産系です。鳥獣保護法では、メスを除いて狩猟対象になっています(☆)。

 

 「ヤマドリ(山鳥)」は、本州、四国、九州の日本の各地に生息します。羽色は生息地域の温度や湿度の影響で異なり、寒冷地では色が薄く、暖地では羽色が濃くなります(☆)。地域ごと5亜種に分かれており、北緯35度20分以北に生息するものをキタヤマドリ、北緯35度20分以南に住む、ウスアカヤマドリ、四国に住んでいる、シコクヤマドリ、福岡、佐賀、大分などに住む、アカヤマドリ、熊本や鹿児島、宮崎に住む、コシジロヤマドリの5分類です(☆)。管理人が住んでいる地域のヤマドリは、キタヤマドリと言うことになります。 

 

 ヤマドリの撮影は、滅多に顔を見せない警戒心の強い野鳥。そして、撮影難易度の最も高い野鳥です。今、日向渓谷はヤマドリ撮影を巡って大フィーバーが起きています。ヤマドリは警戒心の人一倍強い野鳥、野鳥が現れそうな時に、仲間と大声で雑談したり、警戒線を越えての撮影は厳禁と言えます。また、撮影に加わる時、長時間待機しているCMさんもいますので、確認して仲間に加わらせてもらいましょう。同じ野鳥の撮影仲間、注意されたら憤慨することなく心を広く持って素直に従い、くれぐれもいざこざを起こさないよう留意しましょう。最後に、林道は簡易のトイレが一個しかありません。入山前に途中の売店などでトイレを済まして来ることをお薦めします。

 

注)       ☆印は、Webウィキペディアのヤマドリの解説を参照し、一部引用しています。※2021.4.05 内容一部修正

上段右は、母衣打ちのやりかけ   OR  威嚇 ?  

撮影場所;神奈川県伊勢原市 日向渓谷

撮影日;2021.4.03

※岩の上に乗ったヤマドリカが長い尾を垂らしても、400ミリの単焦点だと全身を写しこめる。 2021.4.05撮影追加

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コメント: 4
  • #1

    十兵衛 (木曜日, 08 4月 2021 08:06)

    ヤマドリ久しぶりに見ました。赤茶けた色が良いですね。

  • #2

    鳥の響宴管理人 (木曜日, 08 4月 2021 10:21)

    十兵衛 様
    ヤマドリ、なかなか手強い野鳥でなかなか顔を見せてくれません。運よく二度見ることができたのですが、本当に警戒心が強い鳥です。でもあんなに長い尾を持っているとは想像もつきませんでした。300から400ミリのレンズでないと全身が収まり切れません。最初の写真は、全て尾切れになってしまいました。甘かったです。

  • #3

    十兵衛 (木曜日, 08 4月 2021 21:43)

    崖のやまどり、絵になりますね。

  • #4

    都の響宴管理人 (土曜日, 10 4月 2021 05:35)

    高い評価を頂き、大変ありがとうございました。励みになります。