夏鳥として日本で繁殖する絶滅危惧種の「コアジサシ」。相模大堰下流側の砂州を繁殖地と認めた20数羽の群れが飛び交い、ペアリングの開始。

 夏鳥として日本にやってくる「コアジサシ(小鯵刺)」は、環境省では絶滅危惧種のⅡ類に指定しています。「コアジサシ(小鯵刺)」の営巣場所は川原や砂浜などに簡単なくぼみを作って営巣するため、カラスや猫など天敵に襲撃され易く、更に最近では大雨による豪雨被害など繁殖条件が悪化し、絶滅に拍車をかけているようです。

 

 管理人は、昨年知人から千葉市美浜区の検見川浜で「コアジサシ(小鯵刺)」の撮影ができることを聞き訪ねたことがあります。千葉市はコアジサシを市の鳥として定めており、市環境保全課では2019年からNPO法人リトルターン・プロジェクトの提言を踏まえ、砂浜の一部にコアジサシの保護区を設けるなどコアジサシの繁殖を手助けしているのです。同様に市の鳥にしている小田原市でも酒匂川下流の中州に渡来するコアジサシの繁殖を支援しています。具体的には、日本野鳥の会小田原支部などが中心となり、市民の協力で中州の草刈りなど営巣しやすい環境を整える作業を行っているのです。残念ながら昨年は大雨で中州が埋没し繁殖できませんでした。環境が悪化したコアジサシの繁殖には、NPOや多くの市民ボランティア達の地道な活動があることを忘れてはならない気がしています。

 

 管理人が住む神奈川県には、コアジサシの営巣場所として先に紹介した酒匂川下流の他に多摩川の宿川原堰などが挙げられ、相模川では海老名市社家にある相模大堰付近でも見ることができます。相模大堰は、水道用水の取水地として神奈川県内広域水道企業団が1998年に整備したものです。海老名市の社家から水を引き込み、土砂を取り除いた後、綾瀬や伊勢原の浄水場に送り相模原や横浜市などの水道水に供給されています。その堰を管理する橋が2014年に計画され、地元の意向も汲んで厚木市と海老名市を結ぶ人道橋として2020年3月供用が開始されました。名称は、相模大堰管理橋です。その一環かも知れません、管理橋の下流側に一段高く砂州台地が整備され、野鳥たちの格好の羽休めの場になっているのです。高さもあり少々の大雨でも埋没する危険はなさそうです。この砂州台地が到着したてのコアジサシ達に気に入られた様子で、群れを成し上空を飛び交っていました。

 

 コアジサシは、チドリ目カモメ科に属し、日本の他ユーラシア大陸の中緯度地域で繁殖し、オーストラリアの沿岸部、パプアニューギニアやハワイ諸島で越冬します。また、アフリカやカリブ海沿岸にも分布しています。日本には、本州以南に夏鳥として渡来し繁殖しますが、現状は繁殖地が減少し個体数が減って来ています。減少の一因にはカラスによる捕食も考えられています(☆)。

 

 コアジサシは、全長が24センチメートルでツグミやヒヨドリと同じくらいの大きさです。翼を広げると51センチメートル位になり、尾羽が細くとがっていて飛んでいる姿はツバメによく似ています。夏羽は、頭が黒く、額、のど、腹が白、クチバシと脚は黄色です。冬羽はクチバシと脚が黒くなり、額の白い部分が広くなります。海岸や川などの水辺に生息し、巣は川原や砂浜、埋め立て地などで集団で繁殖地(コロニー)を作り、外敵から集団で防御します。卵は2~3個を産みます(☆)。余談ですが管理人は、昨年11月、渡り前のコアジサシの冬羽を撮影することができました。

 

 コアジサシの餌の捕り方は独特で二通りあります。先ず一つ目は、上空からホバリングしながら獲物を探知し、見つけると水の中目掛けて真っ逆さまに急降下、獲物をゲットする方法です。さながら戦闘機が真っ逆さまに落ちるような感じですね。二つ目は、川の上を飛翔しながら獲物を探知し、見つけると素早く降下してすくい上げるように獲物を捕る方法です。和名の「小鯵刺」は、一つ目の真っ逆さまに急降下して獲物を捕る様子から名付けられたようです。因みに英名はLittle tern、小回りと言う意味でしょうか、NPO法人リトルターン・プロジェクトも英名のコアジサシの名称が用いられています。生態系を地道に支える取り組みは本当に立派です。

 

 コアジサシ達が営巣地として気に入った砂の台地は、結構な広さになります。元々あった中州に砂と小石を積み上げており、周囲は川の流れで遮られ猫や犬など簡単に近づける場所ではありません。唯一上空からの襲撃が考えられますが、コアジサシの連帯行動で撃破は可能と考えられます。管理人が訪ねた日、鳴き声と共に一斉に舞い上がることがありました。良く見ると上空に猛禽が旋回しているのです。観察していると、襲撃に備えるだけでなく餌を捕る時も連帯して行動していることが分かりました。

 

 産卵はまだのようですが、メスはお気に入りの場所を確定しており、抱卵しているような姿でうずくまっているのが確認できました。集団で舞い上がっても、カップルができている組はオス、メスが連れ立って行動しており、お気に入りの場所に戻ってきています。また、捕った獲物を咥えてオスがメスの前に差し出す、求愛・給餌も見られました。オスが咥えた小魚を目の前に差し出し、それをメスが咥え直したのです。婚約成立の一瞬に立ち会うことができました。管理人が確認したカップルは双方が気に入り婚約成立ですが、中にはオスを気に入らず、獲物を出されても受け取らないメスもいるのかも知れません。どこの社会も一緒ですね。もう少し日が経てばカップルになる可能性もあります。順調ならば、来月上旬頃には雛の誕生が考えられ楽しみです。元気な子を沢山産んで欲しいと願っています。そして、この場所が新たなコアジサシの一大コロニー(繁殖地)になることを願っています。 

 

注) ☆印は、Webウィキペディアのコアジサシの解説を参照し、一部引用しています。文中、NPOリトルターン・プロジェクトの活動記録及び検見川浜のコアジサシの保護活動記録を参考にしています。

撮影場所;神奈川県海老名市社家 相模大堰管理橋付近 ※オスが小魚をメスへ差し出す求愛・給餌、上から5~7枚目

撮影日:2021.5.09~10