戸隠の森は例年よりも気温が低め、戸隠山の頂には冠雪が寒そうに。シベリアから渡って来た「ムギマキ(麦播)」は、早くも移動か? 残ったメスの「ムギマキ(麦播)」が一羽、ツルマサキの実を独り占め。

 「ムギマキ(麦播)」の観察は、旅鳥のため春と秋の二回、羽根休めで途中立ち寄りのポイントでしか見ることができません。今年も昨年に続いて長野県の戸隠森林植物園を訪ね、ムギマキに会いに行ってきました。ムギマキの雄は、キビタキによく似ており間違えそうです。眉班の色に特徴があり、眉班の白いのがムギマキの雄、黄色の眉班はキビタキの雄です。

 

 戸隠森林植物園は、天岩戸に由来する創建から二千年の歴史を持つ由緒ある戸隠神社の一角に位置し、霊験あらたかな信仰の地で普段の日から大勢の参拝客が訪れ大変な人気振りです。この時期は、旅鳥のムギマキ狙いで多くの野鳥撮影家たちも集まって来ます。植物園手前の駐車場は早朝から満杯の状態でした。昨年管理人が訪ねたのは10月18日で、植物園入り口近くの広場付近にはナナカマドの木があり、その実を狙うマミチャジナイやアカハラなどが姿を見せ、その写真を撮ることができましたが、今年はそれが見当たりません。まだ実は沢山あるので、個体数の減少が気がかりです。なお、撮影の初日が晴れていたのはラッキーでした。翌日は雪交じりの雨で撮影は中止せざるを得なかったのですから。

 

 ムギマキは、スズメ目、ヒタキ科の小鳥で、先に紹介したようにキビタキの雄によく似ています。ムギマキの大きさはキビタキよりやや小さく13センチメートルです。ロシア東部からオホーツク海沿岸、サハリン、アムール、中国北東部で繁殖し、冬季は中国南部、東南アジア方面に渡り越冬します(☆)。日本には旅鳥として春と秋、渡りの時期に立ち寄り、数は少ないものの日本海側でよく観察されます(☆)。ムギマキの渡りの途中立ち寄りとして、長野県の戸隠の森林植物園は毎年のように群れが確認されており、多くの野鳥観察者から報告されています。

 

 ムギマキの全長は13センチメートル、オスは背面が黒く、眼の後方の斑紋が白く目立ち、喉から腹はオレンジ色、下腹は白色です。メスの背中はオリーブ褐色、眉班は不明瞭、喉から腹はオスに比べて淡いオレンジ色をしています。オスは頭から背中まで黒いため、目に光が当たらないと眼の位置がはっきりしません。メスは黒くないためはっきりしています。

 

 繁殖地は、針葉樹林でつがいで縄張りを持ちます。高木の枝の上に針型の巣を作り、昆虫類や節足動物を食べます(☆)。立ち寄り先ではツルマサキやゴシュユの実も食べます。戸隠森林植物の森にはツルマサキが随所にあって実をつけており、園内のツルマサキのポイントを移動しているようです。渡りの時期は群れで行動しますが、撮影当日はメスが一羽しか確認できませんでした。

 

 ムギマキは警戒心が強く撮影難易度の高い野鳥と言えるでしょうか。戸隠の森林植物園では、ツルマサキの熟した果実の花弁が破れて実が露出し、ムギマキはこれに狙いを定めて取りに来ます。実を捕るのに通常の野鳥は果実近くの枝の上に乗って採餌するのですが、ムギマキはホバリングしながらこの実を捕ってしまうので、姿を確認した途端に餌を取っていなくなってしまうのです。そう言えばムギマキの英名は、Mugimaki Flycatcherです。今回、ムギマキの雄と間違えたキビタキの雄は、採餌するのにホバリングしながら行っているのにはびっくりしました。撮影には慣れるしか手立てはなく、ムギマキの好みの熟れ頃や止まる枝は決まっているので、何回か観察して行動パターンを早めに把握してしまいましょう。

 

注) ☆印は、Webウィキペディアのムギマキの解説を参照し、一部引用させて頂きました。

撮影場所;長野県長野市戸隠 戸隠森林植物園

撮影日;2021.10.22

ムギマキのようにホバリングしてツルマサキの実を採餌する、キビタキの雄。

撮影場所;長野県長野市戸隠 戸隠森林植物園

撮影日;2021.10.22