標高1,400メートルの柳沢峠付近で異変が。新緑のこの時期「コマドリ(駒鳥)」の囀りで溢れかえるはずが、全く音沙汰なし。笹藪から顔を出すのは、赤いクチバシの鮮やかな「ソウシチョウ(相思鳥)」のみ。コマドリはいず処に。

 コロナ感染症の行動制限を受けないゴールデンウィーク、皆さんはどのように過ごされているでしょうか。外出自粛から解放され、海や山、実家などの帰省にそして国内や海外旅行をされた方も多いことでしょう。管理人は久し振りに知人と連れ立って、コマドリのメッカと言われる山梨県の柳沢峠を訪ねました。

 

 峠茶屋に着くまでは霧がかかり心配もありましたが、空は真っ青に抜ける快晴で前日の雨が嘘のようでした。笠取林道に入るゲートを抜け少し急な山道を登っていくと、標高1,400メートルの高山帯はすでに新緑に覆われ、林道のそちこちから野鳥の囀りが聴こえて来ます。また、一時は枯れてしまったかに見えた笹藪も丈は小さいながら回復しているように見えました。ただ気がかりなのは、いつもはそちこちの笹藪から鈴の音を転がすように「ルッルッルッルッ」と聴こえてくる「コマドリ(駒鳥)」の囀りが聞こえて来ないのです。その気配さえ全くしないのです。一体どうしてしまったのでしょうか。「コマドリのメッカ、柳沢峠」に何か異変が起きているようなのです。コマドリの最盛期には、カメラマンでごった返す笠取林道もゴールデンウィークを避けたのか、カメラマンは少なく拍子抜けしました。聞き逃しもあるので、会うカメラマンごとに確認しましたが、コマドリの囀りは無いとの返事です。単なる到着の遅れであれば良いのですが。

 

 笹藪の間から顔を出してくれるのは「ソウシチョウ(相思鳥)」だけで、時々数少ないクロジが来てくれます。「ソウシチョウ(相思鳥)」の好む場所が笹類としても、標高1,400メートルの高山で生息しているのは驚きです。普通は、1,000メートル以下の常緑樹林や広葉樹林で生息、藪の中で営巣し、冬季になると標高の低い地域に移動すると言われています。「ソウシチョウ(相思鳥)」は、全長が雀と同じくらいの大きさで14から15センチメートルです。背面の羽毛は暗褐色、眉班から頬は薄い黄色、咽頭部の羽毛は黄色で胸部は濃いオレンジ色、翼は黄色と濃い赤の斑紋があります(☆)。赤いクチバシと喉元の黄色い色が特徴で、翼の色が一部赤く全体的に鮮やかな色の野鳥です。クチバシは幼鳥の時は黒く、成鳥になると赤くなります(☆)。雌雄による色の違いはなく、メスの方がオスよりやや薄い色になります。竹林や笹藪の中に小群で生息し、カラ類と混群を成すこともあります(☆)。

 

 「ソウシチョウ(相思鳥)」の分布は、インド北部、中国南部、ベトナム北部、ミャンマー北部などで、日本やハワイに移入しています。もともと日本には棲息していない野鳥で、江戸時代には飼い鳥として輸入されていました。最初に野生化の確認されたのは六甲山で、神戸在住の華僑が祝典の際に放鳥された個体が繁殖したものと言われており、本格的に日本に入ってくるのは1980年以降、日中国交正常化以来で中国からの輸入拡大に伴うものです。このように、野生の「ソウシチョウ(相思鳥)」は、ペットとして飼われていたものが、「かご抜け鳥」として野生化し、留鳥として棲みついたものです。日本では外来生物法で特定外来生物に指定されています。

 

 「ソウシチョウ(相思鳥)」は、姿が美しいだけでなくその囀りも大変綺麗です。撮影現場の笹藪からは、時折り聞き覚えの無い綺麗な囀りに辺りを見回してしまいます。漢字で表す和名の「相思鳥」は、つがいのオスとメスを分けてしまうとお互いに鳴き交わしをするため、その名が付いたとされています。中国名も赤いクチバシを先頭に「相思」を含んでおり、「紅嘴相思鳥」と付けられています。どのように発音するのでしょうか。笠取林道の笹藪に、「ソウシチョウ(相思鳥)」の姿は見られるものの、コマドリがいないのは心配になります。

 

注)     ☆印は、Webウィキペディアからソウシチョウの解説を参照し、一部引用しています。

撮影場所;山梨県甲州市塩山 柳沢峠付近 笠取林道

撮影日;2022.5.02