ラムサール条約登録の渡良瀬遊水地に今年も「コウノトリ(鵠の鳥)」が自然繁殖に成功。小山市が設けた人工巣塔で、ヒカル(6歳))とレイ(3歳)のペアが2月から抱卵して無事ふ化。2羽の雛は大きく成長、足環も着け、巣立ちは間もなく。

 「コウノトリ(鵠の鳥)」の巣立ちを観察したのは、今から2年前、2020年の7月でした。今年も小山市が渡良瀬遊水地の第2調節池内に設置する人工巣塔に2羽の雛が誕生し、大きく成長しているとのニュースです。千葉県の野田市から飛来した「ヒカル」君は、新しいパートナーの「レイ」さんを迎え、小山市の人工巣塔を縄張りに認識したようです。

  

 「コウノトリ(鵠の鳥)」の自然繁殖は西日本では珍しくありませんが、小山市の繁殖事例は東日本で初めての快挙で、大きな話題となりました。自然繫殖で2羽の跡継ぎを育てた「歌」さんでしたが、脚を骨折し悪化して、その年の2020年10月に手当の甲斐なく亡くなりました。パートナーを亡くした「ヒカル」君は、翌年の2月に新しいパートナーの「レイ」さんとペアになり、同じ人工巣塔で営巣しました。この年、残念ながら雛誕生は無かったようです。「コウノトリ(鵠の鳥)」は、一夫一婦制で生涯同じペアで暮らすとされています。渡良瀬遊水地には、湿地など自然環境の整備が求められる「ラムサール条約」に登録されており、豊かな自然と豊富な食糧は、子育てには理想的な環境です。子育てに自信を持った「ヒカル」と「レイ」ペア、今後、毎年、雛の誕生と巣立ちが楽しみになります。

 

 「コウノトリ(鵠の鳥)」の「ヒカル」や「歌」、そして「レイ」さんの出生記録を確認すると、人工ふ化でかえり、人工飼育で育っています。親から教えられていない巣造りや子育てなど出来るのかと心配しましたが、全くの的外れでした。繁殖期を迎えると、人口の巣塔には夫婦が協力して木枝を運んで巣造りし、夫婦で抱卵し、育雛も夫婦仲良くしているのです。管理人は2年前、人工巣塔周辺の水田で、「ヒカル」君が雛の好物のドジョウやカエルなどを口に咥え溜め込む様子を撮影しました。巣に戻った親は、雛たちに万遍なく口移しで与えているとのことです。本能なのですね。種を存続するためのDNAに刷り込まれているのかも知れません。 

 

 「コウノトリ(鵠の鳥)」は、1956年7月に国の特別天然記念物になっています。また、環境省では絶滅危惧種に指定し、これまで動物園の人工繁殖や保護活動が続けられて来ました。2005年9月には野生復帰を願って飼育個体の放鳥が開始され、2007年7月に43年ぶりの雛のふ化と46年ぶりの巣立ちがありました。官民での保護活動が功を奏し、2018年には飼育個体数100羽、野外生態個数144羽までに増え、2021年9月には、野外生態個数は260羽を超えるまで増えているとのことです。野鳥観察家としては、コウノトリがサギやツルのように田畑にやって来て餌を啄み、自由に空を舞う姿を見て見たいと願っています。

 

 「コウノトリ(鵠の鳥)」の分布は、日本、台湾、韓国、北朝鮮、中国、ロシアなど極東方面のみとのことです。和名のコウノトリは、漢字て「鵠の鳥」と表記します。鵠はクグイとも読み大形の水鳥を意味します。主な繁殖地は中国の北東部、ロシア南東部のアムール川やウスリー川流域で繁殖し、冬季は韓国、日本、台湾、香港、長江中流域へ南下して越冬します。分布域は東アジアに限られ、推定総数は2,000~3,000羽で絶滅の危機にあります(☆)。日本では、人工ふ化や人工飼育で成長したコウノトリを野生に復帰させる活動と共に、野生に復帰した個体同士の自然繁殖を官民一体で取り組み、個体数の増加に努めています。日本にいるコウノトリは、IPPM-OWSで管理されており、足環あるいは識別番号から簡単に検索することが可能です。管理人は、過去2018年9月16日に座間市新田宿で「コウノトリ(鵠の鳥)」を撮影しましたが、識別番号が J0127で偶然にも今回主役の「ヒカル」君とは兄弟と思われます。記録では、2016.3.26、野田市生まれの6歳(撮影当時2歳)であることが分かりました。因みに、「ヒカル」の識別番号は、J0128、足環の色は、左足、黒・青(上・下)、右足、黄・黒、「レイ」の識別番号は、J0238、足環の色は、左足、赤・青(上・下)、右足、黄・緑、になります(※)

  

 小山市の「コウノトリ(鵠の鳥)」の雛たちは、今月の11日、個体識別のために足環が着けられました。この時、身長や体重測定に合わせて血液が採取され、DNAの検査も行われて雌雄の別が判明します。2羽はそれぞれ、14D-01424 3.4Kg 左足緑・緑(上下)、右足青・黄、と 14D-01425、4.6Kg 左足黒・黒(上下)、右足青・赤、以上の足環が着けられました。雛は十分成長しており、親鳥と並んで区別がつかないほどの大きさです。巣立ちは、今月の後半から6月の上旬頃と予想されます。豊富な餌を沢山食べて元気に巣立って欲しいものです。

 

 人工巣塔で育った雛たちは、電信柱の上などで営巣している個体に比べると安全面や天敵対策などで恵まれています。隣接する栃木市でも人工巣塔の計画があり、小山市を参考に周辺地域の環境整備を行いたいとしています。環境整備には、周辺農家の協力が不可欠です。水生生物を増やすためには無農薬の実践や採餌場として提供できる水を張った休耕田などが必要になるでしょう。特に水を張った休耕田の確保は、渡りの水鳥の羽根休めの場所にもなり野鳥環境の整備にも関連しています。もちろん、減反で減収する分の補填を税の減免などで考慮する必要はあります。ただ、農家としても一年間なり田圃を寝かすことで、土地が活性化し、野鳥の排出する糞が肥料となって作物の収穫量アップがメリットとして考えられます。管理人の住んでいる近くの茅ヶ崎市では、渡り鳥のタゲリの保護に取り組んでおり、タゲリが来る田圃から取れるコメを湘南タゲリ米としてブランド化しています。渡良瀬遊水地周辺の湿地に、第3、第4、第5の人工巣塔が次々とでき、コウノトリの一大コロニーを目指せれば、絶滅からの脱却も近いものと信じています。

 

注) ☆印は、Webウィキペディアのコウノトリの解説を参照し、一部引用しています。☆☆印は、小山市(おやまし)のホームページを参照しました。その他、栃木市及び環境省、兵庫県立コウノトリの郷公園の各ホームページを参照し、引用及びデータを参照しています。※印は、IPPM-OWSで提供するコウノトリの個体検索結果です。

撮影場所; 栃木県小山市下生井 渡良瀬遊水地第2調節池内 人工巣塔

撮影日; 2022.5.17

※上段2枚は、「コウノトリ(鵠の鳥)」の父親「ひかる(J0128)」と幼鳥(JD-01424)。

 中段2枚は、巣材の小枝を運ぶ母親の「レイ(J0238雌)」と巣から離れる父親の「ヒカル(J0128雄)」。

 下段右側は、交換した巣材を咥え、飛翔する母親の「レイ(J0238雌)」。