権現山頂きの水飲み場は、野鳥たちの命のオアシス。葉陰に巧妙に隠れ、顔を出さない野鳥たちもここでは別格。湧き出る水を前に姿を現し、水飲みと水浴びを敢行。

 新緑のこの時期、野鳥の囀りは近くで聞こえるのに葉陰などに上手に隠れ、なかなか姿を見せてくれません。野鳥が人前に姿を見せる主な時は、水を飲む時、餌を探す  (もらえる)  時、子育て中で巣に往き来する時の3つと考えています。標高243メートルの秦野市の権現山には、ハイカーや野鳥たちのために、喉を潤す貴重な水飲み場が設けられています。

 

 弘法山公園の一角にある標高243メートルの権現山は、大磯町にある照ヶ崎海岸の岩場で、アオバトが潮飲みをするコースとして良く知られています。このアオバト達、どこからやって来るのか?大磯町野鳥の会では30年にわたって調査を続け、糞の成分から丹沢方面から来ていることを突き止めています。潮飲みの理由は良く分からないようです。普段は森の奥にいるアオバト達、危険を承知で海岸の岩場にやって来て潮飲みを行っています。潮飲みは、いち早く危険を察知するため10羽程度の群れで行動します。飛翔中は天敵のハヤブサやオオタカの攻撃を避けるため、飛行ルートは最短のルートが決められています。アオバト達が選んだコースは、標高243メートルの権現山から大磯町の標高181メートルの湘南平までの飛行コースです。権現山を訪ねた時、水飲み場周辺では「オーアーオ」とアオバトの鳴き声を耳にしました。

 

 権現山には、丘陵の頂きに展望台があり、ここに上ると湘南の海や平塚そして秦野市の街並みが一望でき、振り返れば丹沢山系の山並も望めます。丘陵の一角にバードサンクチュアリゾーンが設けられ、野鳥のために喉を潤す水飲み場が提供されています。特別にしつらえた専用台からは、泉のように水が湧き出て水が止められることはなく、まさに野鳥たちのオアシスです。水飲み場は野鳥たちを怖がらないよう仕切りがあり、そこには幾つかの観察窓があって野鳥たちの水飲みの様子を観察することができます。野鳥たちを観察していると仲間内でも水を巡る攻防は常に起きており、それを考えると権現山に棲息している野鳥や渡りで途中立ち寄りの野鳥たちは大変ラッキーと言えましょう。人工の水飲み場からは常に命の飲み水が受けられるのですから。

 

 野鳥が人前に姿を現す条件には幾つかありますが、水を飲む時は否応なく姿を見せてくれます。乾ききった喉を潤す時の野鳥の表情は何とも言えません。もう一つは野鳥の水浴びです。野鳥は体温が高いために羽ダニが付き、それを水浴びで取り除いているのです。水飲み場は、水を飲むものと水浴びをするもの両方がおり、群れでやって来るメジロなどは陣取りで忙しく動き回ります。水飲み場で、留鳥のメジロやシジュウカラ、ヤマガラは、ファーストペンギン的存在で、水飲みに躊躇(ちゅうちょ)する渡りの野鳥達の警戒心をゆるめ、つられてやって来るようになります。野鳥たちの水飲みシーンの撮影も面白いのですが、水を飲む前は近くの小枝に止まることがあるので、枝止まりの撮影をすることができます。水浴びは、時間をかけるのでゆっくり撮影できますが水飲みはあっという間に立ち去ってしまうので、分けて撮影すると良いかも知れません。

 

 人前に姿を現す次の条件は、野鳥が餌を探し回り食べる時です。餌を食べる時は警戒心はともかく人前に姿を見せてくれます。ただ自然の中で餌を食べるシーンはなかなか訪れず、何時間も粘る必要があります。そこで一般的に行われているのが人為で市販されているミルワームなどの餌をあげ誘い出す方法です。自然の中で野鳥が餌を確保することはなかなか難しいので、美味しいご馳走が目の前に出されれば恐怖を忘れて姿を現して来ます。気を付けなければならないのは、野鳥は量をコントロールできないので与え過ぎに注意しなければなりません。自然に野鳥を観察する方や何時間もかけて一瞬を待ち受ける野鳥撮影家にとっては眉をひそめる事柄かも知れません。管理人は餌付けの積極的な推進派ではありませんが、大勢が楽しめるのであればそれも有りとの賛同派です。賛否は夫々ありますが、野鳥を撮影するために国有林や私有林に立ち入り結果として自然を荒らしてしまう、そんなことにならないよう限られた場所で大勢が楽しめる方法も一理ありと思っているのです。コマドリのメッカである柳沢峠のブログを見るとこの問題が取り上げられていますね。管理人も大勢の一人としてコルリやソウシチョウの撮影に加わらせてもらいましたが、スキルをアップさせ、こうした撮影方法から早く卒業し、自然のままの野鳥の姿を撮影できればと考えています。

 

 最後は営巣場所で雛に餌をあげたり運んできたりする時を狙う方法です。営巣場所の発見は、数多く現場に通わないと突き止めることが困難です。営巣場所に近付き過ぎると警戒心から営巣を放棄する場合もあります。管理人は、過去に知人から情報を得て撮影したこともありますが、余りお薦めできません。子育て中の野鳥の親は人一倍神経が過敏で写真を撮られていること自体にストレスを与えていると思われるからです。その他、人前に姿を現す方法として友達の鳴き声でおびき出す方法です。かつて奄美大島を訪ねた時、 奄美自然観察の森に勤める方が口笛で特定の野鳥を呼び寄せる妙技を見せてもらいました。シジュウカラは仲間を呼び寄せる鳴き声があることが知られています。奄美の事例はその野鳥の言葉を理解し、人前近くに呼び寄せたようなのです。もちろん餌などで釣った様子もありませんでした。

 

 権現山の水飲み場は、野鳥撮影家の間で人気のスポットになっており、観察窓も限られていることからなかなか撮影が難しくなっています。秦野市(観光課)が提唱するように、できるだけ交代して沢山の人が楽しめるよう配慮したいものです。また、野鳥にストレスを与えないよう観察窓付近では小声での会話が望まれます。今回の撮影では、キビタキのオスが水飲み場近くまで来ましたが、警戒して途中の小枝に止まり退散してしまいました。メスは大胆でメジロなどと一緒に姿を見せてくれました。訪ねたこの日、水飲み場にやって来た野鳥の種類は少なく、キビタキ、メジロ、ヤマガラ、シジュウカラ、ヒヨドリ、キジバト、コゲラの7種類です。アオバトは、鳴き声だけを確認しています。管理人が気に入った水飲み場の写真を掲載いたします。  

撮影場所; 神奈川県秦野市 権現山水飲み場

撮影日;2022.5.23