富士山麓に広がる大草原は色んな夏鳥たちの恋の広場。テリトリー宣言の囀り競争は、「ホオアカ(頬赤)」も負けじと岩場から枯れ枝のトップに上り囀り合戦。

 富士山麓の北富士演習場には大草原が広がり、この時期は東南アジアなどから色々な夏鳥たちが渡来してきます。5月の初めに知人と訪ねた時には茶色の台地だけしか見えなかったのに、すっかり新緑に染まっていました。前日の28日は、一般公開されませんでしたが、静岡県側の東富士演習場ではオスプレーも参加する大規模な火力演習がありました。

 

 北富士演習場には陸上自衛隊の北富士駐屯地があり、戦車などの特殊工作を任務とする特科連隊が訓練を続けています。東富士の火力演習には、おそらく彼の地の戦車部隊も参加したことと思われます。この地域は、立ち入りが許可されている日でも砲弾等の射撃訓練こそありませんが、戦車の運行テストはあるようで野鳥などを撮影していると地響きと共に戦車の砲身がにょっきり顔を出しびっくりしたことがあります。また、この時期、大草原ではゼンマイやワラビなどの山野草が採れるため野草取りの人で賑わいます。同地は恩賜林組合が管理しており、入山には鑑札料金(500円)を支払います。演習場の中にある道路は、古いナビでは道路標示が出て来ますが、新しいナビには表示されないので、迷子にならないよう注意しなければなりません。もう一点、演習用道路なので舗装はされていません。砂利を敷きこんだ場所もありますが、殆どが無舗装で車が土ほこりまみれになります。ラリー気分で土ぼこりをあげる人もいますが、野鳥を驚かさないようゆっくり走行したいものです。

 

 北富士演習場にやって来る夏鳥は、ホオアカを始めとして、ノビタキ、コヨシキリ、コムクドリ、オオジシギが渡来してきます。オオジシギはとくに有名で、この時期は上空を音を立てながら旋回しているので直ぐ分かります。今回取り上げたいのは、「ホオアカ(頬赤)」です。「ホオアカ(頬赤)」は、ホオジロ属ホオジロ科に分類されるだけあって、留鳥のホオジロに良く似ています。鳴き声も良く似ていますが語尾が下がるのがホオジロ、少し上がるのがホオアカです。標準語と栃木弁・茨城弁の違いですね。決定的な違いは、名前の由来である、頬が赤褐色であることです。「ホオアカ(頬赤)」の分布は、日本、韓国、北朝鮮、中国、ロシア南部、インドを始めとして、タイ、フィリピンなどの東南アジアにしか分布しません。北部地域で繁殖し、冬季には南下して越冬します(☆)。

 

 「ホオアカ(頬赤)」の大きさは、15~16.5センチメートルでホオジロよりもやや小ぶりになります。側頭部に赤褐色の斑紋があり、和名の由来になっています。腹面は白く、体側面には褐色の縦縞があり、メスは色が少し薄くなります(☆)。食性は、雑食で昆虫類、節足動物、果実、種子等を食べます(☆)。草原には、たくさんの野鳥が営巣していて囀りがにぎやかです。ひときわ大きいのがウグイスで、コヨシキリが大きく囀ると負けじとホオアカも囀り返していました。近ずくと直ぐ飛び去ってしまいますので、1,000ミリくらいの大口径レンズで撮影することをお勧めします。

 

 訪ねたこの日は、各地で夏日を超える高温になりましたが、亜高山帯の富士のすそ野は日差しこそ強いものの日陰に入れば涼しさを感じる高原の気候でした。富士山麓高原で撮影できる野鳥に、普段は撮影機会の少ないカッコウが挙げられます。カッコウの繁殖は、ウグイスやノビタキに托卵することで知られていますが、この時期は、カッコウの飛び交う姿が良く見かけられるようになります。草原の入り口近くでは、松の木に立ち寄るカッコウを待って多くの野鳥撮影家たちが陣取っているのが見えました。囀り合戦がにぎやかな富士山麓の高原は、8月の終り頃まで続きます。機会があれば是非高原の野鳥撮影をお勧めします。

 

注)  ☆印は、Webウィキペディアのホオアカの解説を参照し、一部引用しています。

 

撮影場所; 山梨県都留群忍野村 北富士演習場

撮影日; 2022.5.29