今年も平塚の葦原にカップルで渡来した、忍術使いの「ヨシゴイ(葦五位)」。到着後はペアになって、早くも夫婦が協力し巣造り専念。人前には忍法「空蝉」、首を長く伸ばして葦の鞘に擬態し、スルリと抜け出てカメラマンを眩惑。

 先日、鳥友から平塚の葦原に今年も「ヨシゴイ(葦五位)」が入ったとの情報をもらい、例年よりも早いと思いながら現地を訪ねました。「ヨシゴイ(葦五位)」が棲みかとなる葦原から顔を出すのは神出鬼没、どこから顔を出すのか分からないので撮影は大変です。出てきても葦に擬態してまともに姿を見せてくれず、カメラマン泣かせの厄介な野鳥なのです。

 

 葦の中に隠れるとなかなか顔を出してくれず炎天下の中ひたすら待つこととなり、しかも、どこから顔を出すか分からないので、監視するカメラマン同士の協力は不可欠です。待ち時間は近況を話すことも多くなり、難しい野鳥撮影なので、達成した時にはより信頼関係が深まり、友達関係も蜜になります。彼の地で繁殖する「ヨシゴイ(葦五位)」は、管理人が野鳥撮影を始めてからで彼これ7年以上になるのは間違いありません。その間ずっと水田の中に葦原を残し、「ヨシゴイ(葦五位)」の繁殖を助けてきている地主の農家さんには本当に頭が下がります。心から感謝です。ヨシゴイが繁殖場所として選んだ葦原は、周りが水田で、近くを流れる川にも葦が生え隠れ場所が沢山ある環境です。何より、水田には農薬を使わない無農薬栽培なので「ヨシゴイ(葦五位)」の餌となるドジョウやカエルがたくさんおり、子育てには恵まれた条件が整っているのです。この場所でのヨシゴイは、毎年、何羽かの雛を育て上げ、冬に入る前に越冬地に渡っていきます。

  

 ヨシゴイの分布は、フィリピン、ベトナム等の東南アジア諸国とインド、スリランカなど南アジア地域の一部そして北アジアのロシア、日本を含む東アジアと広範です。日本には繁殖のため夏鳥として飛来してきます(☆)。ペリカン目、サギ科、ヨシゴイ属に分類され、全長は31~38センチメートル、翼を広げた時は53センチメートルでサギの仲間としてはやや小さめです。上面は褐色、下面は淡黄色の羽毛に覆われ、羽根の袖が濃紺色です。クチバシはオレンジがかった黄色、虹彩も黄色です。雄の場合、頭の上が濃紺色をしており雌とは異なります(☆)。湿原、湖沼、水田で生息する他、葦原で単独またはペアで生活します。和名の「ヨシゴイ(葦五位)」は、葦原にいることから名付けられています。食性は動物食で魚、カエルなどの両生類、昆虫、ザリガニなどの甲殻類を食べます(☆)。餌を見つけると、ササゴイの様に移動せずに首を長く伸ばし、一瞬のうちに餌を捉えてしまうのが妙技です。葦原の隣は水田で6月の後半になると稲の株も大きく育ち、オタマジャクシも増えてきます。この頃、ヨシゴイは抱卵から雛がかえる時期に重なり、手っ取り早く水田に入りオタマジャクシなどを捕って生まれた雛に与えています。水田の中での狩りの仕方は巧妙で、胴体を隣の列に置いて、件の首を稲株の間から突き出し、標的を見つけるや首を長く伸ばして素早くゲットします。大物ではありませんが、百発百中の狩り上手、かなりの量を採餌します。

 

 今年やってきたヨシゴイは警戒心が特に強そうな個体です。常に外の様子を覗っていて、人がいるとなかなか顔を出してくれません。この「ヨシゴイ(葦五位)」、決まった場所から姿を現すわけではないので、葦原全体を監視していなければならず大変です。またカメラは、常にスタンバイ状態にしておき、確認できたらカメラを直ぐ向けられるようしておかなければなりません。姿を見せるとあっという間に飛び去るからです。本日確認した「ヨシゴイ(葦五位)」は、何回か巣材を選び運んでいました。巣が完成すると3から7個の卵(☆)を生み、抱卵が始まります。隣の水田には稲の苗が植えられたばかり、苗の成長に合わせて抱卵も進み、今月の終り頃には雛がかえることでしょう。これからは、生まれた雛の数にもより、採餌の回数も増え、人前に顔を出す機会もふえてくると思います。人にも慣れてくるので比較的撮影しやすくなると思います。葦の梢の先端で擬態を見せたり、滑空もして楽しませてくれます。 「ヨシゴイ(葦五位)」の飛翔は美しく、葦原の上を濃紺の袖を全開にして飛ぶ姿には魅せられます。ヨシゴイの情報をもらった鳥友との出会いは、ここヨシゴイの撮影現場からでした。難易度の高い野鳥撮影なので何度も通うこととなり顔見知りもできてきます。

 

<撮影に当たって>    撮影場所は、農道や河川側道になっています。この時期は、田植えなど農繁期になっており、農家さんの仕事の邪魔にならないよう注意が必要です。農家の好意で葦原が存続していることを理解し撮影に臨んでください。混んでいる場合には日を改めるなど臨機応変に対応を考えましょう。

 

注)☆印は、Web版ウィキペディアのヨシゴイの解説を参照及び一部引用しています。

撮影場所;神奈川県平塚市岡崎

撮影日;2022.6.02