北の大地、紋別に広がる砂丘は、低木のハマナスや蝦夷ウドが自生する原生の花園。一斉に新芽や花が咲き出し、初夏を告知。一大コロニーの花園は、短い夏に負けじと、ノゴマやノビタキなど夏鳥たちが繁殖活動に大忙し。

 コロナ感染症の行動制限が解除されたことを受けて、今月6月13日、月曜から15日の3日間、北海道紋別市にある3か所の原生花園を訪ねました。東京羽田空港からオホーツク紋別空港までは約2時間弱のフライトで、滞在期間3日間を有効に野鳥撮影ができます。

 

 紋別空港で予約しておいたレンタカーに乗り、先ずは空港に近いコムケ湖に向かいます。

コムケ湖は、空港から15分くらいのところにある小さな湖で、現状は葦が自生していて湿地になっていました。網走に通じる国道を南下して行くと、さすがに北海道、道路幅が広く信号も少ないので高速道路を走っているかの気分です。時々、ナビに速度超過を注意されながら案内がないと見落とす入口を左折し、目的地である「コムケ原生花園」に到着です。北海道の地名は、殆どがアイヌ語を漢字に当てはめており、コムケは「小向」と表し、コムケ湖が曲がっていることを意味することに由来するそうです。

 

 到着して困ったことに気付きました。北の大地で狙う野鳥撮影は、ハマナス(浜茄子)」や蝦夷ウドなど花とのコラボ写真でしたが、求めるハマナスは花がチラホラ、蝦夷ウドの花も咲いていましたが数が少ないのです。目的の花はともかく、色々な野鳥のサエズリが四方から聴こえ、まさに野鳥の楽園を目の当たりにしました。この原生花園が一大コロニーとなり、繁殖をしている野鳥は、ノゴマ、ノビタキ、コヨシキリ、ベニマシコ、オオジュリンなどです。この場所でのオオジュリンは、繁殖場所の葦原が遠く、なかなか近寄ってくれません。これらの野鳥はすべて夏羽根なので、過去に撮影した写真とは随分感じが違います。ベニマシコは、冬の印象よりも更に赤色が増し、繁殖時はこんなに綺麗になるのかと驚きました。また、ノビタキの夏羽根は顔が黒くなるのを知っていましたが、オオジュリンの頭から胸の一部とクチバシが黒くなるのを初めて見ました。まさに感動そのものです。原生花園の周辺には小さな林が広がり、カッコウが托卵するため旋回し、時折り葦原に舞い降りていました。

 

 今回の野鳥撮影は3日間なので紋別市内に宿を取りました。宿は朝食が付いていて紋別特産のホタテ貝は食べ放題、新鮮なので甘みがあります。二日目の目的地は、シブノツナイ湖です。「シブノツナイ」は、やはりアイヌ語で、「うぐいの多い川」を表し、シブノツナイ川がウグイの多かったことに由来するそうです。シブノツナイ原生花園は、ほぼ湖の東側に沿って位置し、オホーツク海側の砂丘にあたります。この原生花園も午前中は逆光となるため、前日、曇りで撮影の難しかったコムケ原生花園に再び立ち寄りました。この日は快晴で温度が上がり虫の出が良く、ノビタキの餌運びを頻繁に見ることができました。巣に近い場所では威嚇行動を取り、かなり近寄ってくれます。ノゴマは、決まったソングポストで鳴いてくれましたが、晴れて光が強く、色飛びしてうまく撮影できません。餌の出が良くなると托卵を狙うカッコウの出番です。採餌で両方の親が巣から離れるため、近くの枝に止まって機会を待っているのです。カッコウの枝止まりを撮ることができました。

 

 コムケ湖で簡単に食事し、午後からシブノツナイ湖に向かいました。広い国道をしばらく南下するとシブノツナイ湖の入り口に出ます。途中までは舗装された道路なので、コムケ湖とは雲泥の差です。原生花園の丘の上から眺めるシブノツナイ湖は広く、浅瀬付近は葦が密生していました。枯れた葦の穂先には、頭が黒いオオジュリンが梢に止まり、おちょぼ口を全開に、ラブソングの囀りで溢れていました。コムケでは、証拠写真でしたが、この場所では鳥さん自らが目の前に来てくれます。葦原には、オオジュリンの他にノビタキも営巣しています。道路を歩いていると、威嚇のため近くの枝に顔を出します。湖のオホーツク海側は高台になった砂丘で、斜面はハマナスの群生地になっています。

 

 ハマナスはバラ科の植物で油虫などが付くのでしょうか。これを狙ったオオジュリンは、斜面のハマナスの枝葉に止まったり、葦原の間を行ったり来たりしていました。ノゴマやベニマシコは、ハマナスの斜面地にいます。好みの虫などがハマナスにいるのでしょう。ハマナスの根元付近を動いていてなかなか顔を出しません。これらの野鳥は専門に待つのではなく、オオジュリンなどを撮る合間に、出くわせば撮影する感覚が良さそうです。ノゴマは、時々ソングポストの上で囀るので分かりますが、ベニマシコはペアができているらしく、かぼそい囀りは確認できても姿は見せてくれません。この場所はオジロワシのテリトリーらしく、上空を旋回するオジロワシの撮影もできました。

 

 三日目は、紋別市街を北上してオムサロ原生花園を訪ねました。これまでの原生花園とは違って大きめの公園と言った感覚です。大きめの駐車場の一角には、オムサロ・ネーチャー・ビューハウスがあり、ちょっとしたした食事や飲食もできます。苦労して訪ねたコムケやシブノツナイの原生花園でしたが、この整備された原生花園は高齢者向けの野鳥撮影スポットとして推奨できます。北上して花の開花が遅れていると思いきや、他の原生花園よりも花が咲いており、蝦夷ウドの群生は花の真っ盛りでした。園内の入り口にエゾカンゾウもあり花を付けていましたが、本格的な開花はこれからでしょう。

 

 「オムサロ」とは、アイヌ語で、オ・ム・サルルン、川尻、塞がる、湿地の意味を表す言葉です。原生花園は、他と同様、砂丘にハマナスや蝦夷ウドが群生し、下りの斜面になっています。この原生花園では、白いハマナスも見られ、6月の終り頃からエゾカンゾウも咲き出すようです。原生花園は一人が通れる側道が縦横に整備され、野鳥撮影家にとってはありがたい配慮です。この原生園では、ノビタキに雛がかえり、オス・メス共に頻繁に採餌を繰り返し、巣に近ずくと威嚇のため顔を見せます。ここでは、ノゴマとベニマシコも観察できましたが、出はいま一つです。この原生花園では、ノビタキの空中捕食も観察できました。蝦夷ウドなどの上から上空に向け垂直に飛翔し、降りてくるときは獲物を咥えて戻るのです。まさに神業の妙技です。北の大地にある夏鳥の繁殖地、大切に残したい遺産です。

撮影場所;北海道紋別市沼の上    コムケ原生花園     撮影日;2022.6.13

     ;北海道紋別郡湧別町信部内 シブノツナイ原生花園                    ;2022.6.14

      ;北海道紋別市渚滑町川向  オムサロ原生花園                            ;2022.6.15

上から順に、ノゴマ、ノビタキ(夏羽)、オオジュリン(夏羽)、ベニマシコ(夏羽)、コヨシキリ

上から順に、カッコウ、オジロワシ、ノビタキ(夏羽)

コメントをお書きください

コメント: 2
  • #1

    石井政彦 (金曜日, 24 6月 2022 04:32)

    いつも拝見しています。野鳥観察を初めて3年のビキナーで、横浜市在住ですので参考にさせて頂いています。以前から道東の自然が好きで9月に網走へ行きます。貴重な情報ありがとうございました。

  • #2

    鳥の響宴管理人 (金曜日, 24 6月 2022 15:30)

    石井 様

     コメントを寄せて頂きありがとうございました。正直、ご覧頂き少しは役立っているのかと大変嬉しく思っております。野鳥撮影を始めて3年目とのこと、一番面白みが出てきた頃ですね。今回、道東の紋別は初めての旅でしたが、広くてこれが北海道なのだと改めて知りました。今回の原生花園巡りでは、4か所回る予定でしたが、網走に近いサロマ湖にあるワッカ原生花園は諦めました。ハマナスの花の最盛期は、今月の終り頃が良さそうです。
     私は大和市なので野鳥の撮影場所でお会いしているかも知れません。今後もよろしくお願いいたします。