緑色のナポレオンハットの帽子を被った水鳥の「ヨシガモ(葦鴨)」。去年の暮れから横浜の遊水地に群れで渡来し越冬。春を迎え艶やかに風切り羽根は一段と長く成長し、到着時の姿から大変身。北国のシベリアへの渡りもまもなく。

 先日訪ねた横浜市の今田遊水地で、昨年暮れから渡来している「ヨシガモ(葦鴨)」の群れが元気に越冬しているのを確認してきました。今田遊水地は境川の氾濫防止に備えた遊水施設で、2019年7月から開所しており今年で4年目を迎えます。施設の6割程を多目的広場として市民に開放する一方、残る4割は野鳥のためのビオトープとして提供されています。

 

 遊水池は夏の間、水草の「菱」が蔓延(はびこ)り、水面が見えなくなるほどになります。それが冬を迎える頃、葉は枯れますが水面下では茎だけが残り、越冬する水鳥たちの格好のご馳走になっているのです。遊水池には適当な大きさの島が形成されており、植えられた葦が葦原となり、野鳥たちの隠れ場所にもなって、多くの野鳥たちを呼び寄せ「野鳥の楽園」になっているのです。 冒頭紹介したように今田遊水地は開設から4年目になり、越冬する水鳥たちにも居心地の良さが分かって、すっかり定着してきたようです。 

  

 去年の暮れから今田遊水地のビオトープには、5羽の「ヨシガモ(葦鴨)」のオスとメスがこの冬を乗り切りました。春を迎えてペアが確定し、オスは婚姻色となって艶やかさに磨きがかかり、到着時の地味な出で立ちとは全く違う大変身を遂げています。大きく違うのは、風切り羽根が成長し鎌のように湾曲して水面に垂れ下がっていることです。また、ナポレオンハットと呼ばれる帽子のような頭も緑色が増していることでしょうか。「ヨシガモ(葦鴨)」の我が国への渡来は数が少ないので、横浜の今田遊水地に渡来が定着したのは公園を管理する関係者の皆様の熱い努力によるものと感謝しています。

 

 

 「ヨシガモ(葦鴨)」は、中国、モンゴル、ウスリー、シベリアなどで繁殖し、冬季になるとタイ、ベトナム、ミャンマー日本、朝鮮半島、中国南部など東南アジア方面へ南下して越冬します(☆)。日本には冬鳥として越冬のため渡来し、北海道では少数が繁殖をしています(☆)。日本に渡来するヨシガモたちですが、シベリアや中国などから南下して来ているものと考えられます。

 

 「ヨシガモ(葦鴨)」のオスは、全長が54センチメートル、メスは少し小さく48センチメートルです。翼開長は、78~82センチメートルになります。繁殖期のオスは、頭から後頭、眼先、頬の羽衣が赤紫色、眼から後頭の羽衣が緑色をしています。これが騎兵の帽子のように見え、野鳥撮影家の間ではナポレオンハットの鴨として人気があります。喉の羽衣は白や淡黄色、黒い首輪状の斑紋があります。尾羽基部を覆う羽衣は黒く、その側面には三角形の黄色の斑紋があります。三列風切りは、鎌の刃先のように長く湾曲し、外縁が白色をしています。和名の「葦鴨」はシンプルで、原にいるということで名付けられています(☆)。

 

 「ヨシガモ(葦鴨)」は、河川、湖沼などに生息し、冬季には内湾などにも生息します。食性は植物食で、種子、水生植物、海藻などを食べます。6~8月が繁殖時期で、水辺の茂みなどに巣を作り、6~9個の卵を産み、メスだけが抱卵します(☆)。今田遊水地の「ヨシガモ(葦鴨)」たちは、野鳥のためのビオトープがすっかり気に入っているようです。葦原には水鳥の他に、冬季には、葦の皮の間に付く白い子虫を餌にする「オオジュリン(大寿林)」も渡来して来ます。野鳥撮影をする者にとって、今田遊水地は楽しみなスポットになりつつあります。「ヨシガモ(葦鴨)」は、国内で越冬するカモの中では比較的数が少なく、なかなか見かけることがありませんでした。最近、今田遊水地のような浸水対策施設の中に野鳥の棲めるビオトープが造られ、野鳥の生息環境が人工的に作られ保護されるようになりました。今田遊水地も4年目を迎え、水鳥や野鳥たちの楽園になっています。長逗留を続けている「ヨシガモ(葦鴨)」たち、これから繁殖地に渡り沢山の子供を育て、この冬再び元気に戻ってくることを願っています。

 

注)  ☆印は、Webウィキベディアのヨシガモの解説を参照し、一部引用加筆しています。

撮影場所;神奈川県横浜市泉区下飯田  今田遊水地

撮影日時;2023.3.29